TIMSSとは
TIMSS(Trends in International Mathematics and Science Study)と呼ばれる調査があります。算数・数学及び理科の到達度に関する国際的な調査で、小学4年生と中学2年生が対象です。前回は2011年に実施され、次は2015年に実施されます。前回までの調査結果は、国立教育政策研究所のTIMSSのサイトで見ることができます。
算数・数学と理科の調査がありますが、理科だけに絞ってみてみます。
国際順位
- 小学4年生 4位(50か国/地域中、韓国、シンガポール、フィンランドに次いで)
- 中学2年生 4位(42か国/地域中、シンガポール、台湾、韓国に次いで)
他の国際的な調査と同様、上位の成績です。細かい調査データがあるのですが、ここでは、理科の環境に関する興味深いデータを紹介します。
中学2年生は、小学4年生と比較して「理科の勉強が楽しい」生徒はかなり減る
「理科の勉強は楽しい」小学4年
小学4年生で「理科の勉強は楽しい」という項目に対して、「強くそう思う」「そう思う」と答えた児童は、国際平均とほぼ同じで、90%もいます。ところが・・・
「理科の勉強は楽しい」中学2年
世界的に見ても、年齢が上がると、「理科の勉強は楽しい」と思う子どもは減るのですが、日本の落ち込み方は大きいですね。内容が難しくなったり、必要な計算が難しくなるので、楽しくなくなるのだと思いますが、国際平均から見て落ち込み方が大きいのは、なぜなのでしょう。
日本はシンガポールに学ぶべき
「理科の勉強は楽しい」小4・中2比較(台湾)
「理科の勉強は楽しい」小4・中2比較(韓国)
国際的にも成績が上位である台湾と韓国について、小学4年と中学2年を比較すると、日本と同様の傾向を示しています。ということは、中学2年生の成績の良い国では、理科があまり楽しいとは思われていないということになります。この調査からだけでは、因果関係は分からないのですが、負の相関(成績の良い国ほど、勉強が楽しいと思う子どもは少ない)はありそうです。
ところが、上位国でここまで落ち込まない国があります。それがシンガポールです。
「理科の勉強は楽しい」小4・中2比較(シンガポール)
「強くそう思う」の割合が下がっているものの、「そう思う」を加えると、ほとんど変わっていません。ものすごく重要なことを示唆してくれていると思います。シンガポールは中学2年の国際順位は1位です。2位から4位の台湾、韓国、日本とは大きく傾向が違うということです。
TIMSSには他にもいくつかの調査項目がありますが、日本が考えなければならないのは、私は次の調査結果だと思います。
シンガポールと日本の大きな違いは「理科を使う職業に就きたいか」
中学2年生だけの調査項目ですが、「理科を使うことが含まれる職業につきたい」という設問に対する結果が、次のようになっています。
「理科を使うことが含まれる職業に就きたい」国際比較−中学2年(「強くそう思う」「そう思う」の合計)
資料に掲載されている国だけではありますが、日本は最低の割合でした。台湾や韓国も日本ほどではありませんが、低い傾向にあります。国際平均値が56.2%なので、もっと割合の高い国がたくさんあるのですが、日本語の資料には掲載されていませんでした。それにしても、ひどい数字です。日本こそ工業製品を開発しないとダメなのにもかかわらず、その必要性が広く伝わっていないということでしょう。アメリカやイギリス(イングランドですが)でも半数の中学2年生が、理科系の仕事に就きたいと思っているのです。
シンガポールはこの結果を見る限りは、理想的な教育になっています。「理科系の仕事をしたい」ということがモチベーションとなって、「理科の勉強は楽しい」と考えていて、その結果としてこのTIMSSの理科の成績がトップです。
一方日本はというと、「将来理科系の仕事に就く気持ちはあまりない」し、「理科の勉強もあまり楽しくない」けど、理科の成績は良いのです。あまり良い傾向とは感じられません。
理系の仕事を重要性をアピールし、もっと理系の仕事が優遇されるような対策を取らないと、小中学生の理科に対するモチベーションは上がらないでしょう。この文章を書いていて、私ももっと何かしなければならないと感じています。
コメント
[…] 文系と理系に分けるのがおかしい、という人もいますし、文系と理系の両方の考え方が必要だという人もいるでしょう。どちらかというと、私もその意見に賛成なのですが、問題なのは、日本の「中学2年生で理科に関係する仕事に就きたい」という子どもが2割しかいないという現実です(TIMSSの調査結果について書いた記事もご覧ください)。2割というのは、世界的に見ても最低です。欧米ではほぼ5割の中学2年生が理科に関する仕事につきたいと答えています。 […]
[…] (TIMSSについては「理科を使う職業に就きたい中学2年生は、世界で最も少ない」にも記事を書きました。 […]